清澄庭園
まず門をくぐったのは、回遊式林泉庭園の清澄庭園だった。明治の実業家・岩崎弥太郎が深川の地に造った庭で、池のまわりにはわざわざ全国から取り寄せた名石が点々と据えられている。水ぎわに飛び石が打たれていて、池に張り出すように歩けるのがこの庭ならではで、足もとの石を選びながら進むと、鯉が寄ってきて水面に輪をつくる。開園は朝9時から。入園料は一般150円ほどと気軽だが、料金や時間は変わることがあるので公式の案内で確かめておきたい。
朝の清澄白河で地下鉄を降りると、まだ通りはひんやりしている。コーヒーを焙煎する香ばしい匂いが角のどこかから漂い、運河に渡した橋の上で立ち止まると、油を流したような黒い水面に雲が映って揺れていた。深川と呼ばれるこの一帯は、もともと埋め立てと掘割でできた土地で、歩いているとそこかしこに水の気配がついてまわる。これから、庭園の池からはじめて、緑の橋を渡り、線香の煙のたつ門前町まで、水と路地をたどって南へ下ってみる。
FUKAGAWA ── 線香の匂いと水の匂いがまじる、江東の路地をたどって
マチノワ編集部
順位ではなく、編集部が選んだ5スポットを順にご紹介します。朝の清澄白河で地下鉄を降りると、まだ通りはひんやりしている。コーヒーを焙煎する香ばしい匂いが角のどこかから漂い、運河に渡した橋の上で立ち止まると、油を流したような黒い水面に雲が映って揺れていた。深川と呼ばれるこの一帯は、もともと埋め立てと掘割でできた土地で、歩いているとそこかしこに水の気配がついてまわる。これから、庭園の池からはじめて、緑の橋を渡り、線香の煙のたつ門前町まで、水と路地をたどって南へ下ってみる。
まず門をくぐったのは、回遊式林泉庭園の清澄庭園だった。明治の実業家・岩崎弥太郎が深川の地に造った庭で、池のまわりにはわざわざ全国から取り寄せた名石が点々と据えられている。水ぎわに飛び石が打たれていて、池に張り出すように歩けるのがこの庭ならではで、足もとの石を選びながら進むと、鯉が寄ってきて水面に輪をつくる。開園は朝9時から。入園料は一般150円ほどと気軽だが、料金や時間は変わることがあるので公式の案内で確かめておきたい。
庭園を出て仙台堀川沿いに東へ歩くと、急に視界が開けて木場公園に出る。ここはかつて貯木場として材木が浮かべられていた土地で、その名残が「木場」という地名に残っている。公園は運河で南・中・北の三つに分かれ、それをつなぐのが弓なりに反った木場公園大橋だ。橋の上まで登ると風が通り、晴れた日には橋の架構の向こうに東京スカイツリーが立っているのが見える。園内の都市緑化植物園はおおむね無料で入れるが、開園時間は事前に確認しておくとよい。
公園から南へ下り、永代通りに合流して門前仲町の参道に入ると、ひときわ目を引く黒い壁が現れる。深川不動堂の本堂で、外壁いっぱいに梵字が連ねて貼り巡らされ、近づくと文字の海に取り囲まれるようだ。成田山新勝寺の東京別院で、江戸の昔から「深川のお不動様」と呼ばれてきた。一日に数回、太鼓と読経の響く護摩祈祷が厳修され、堂の奥から地鳴りのような音がもれてくると、参道の喧騒がふっと遠のく。参拝そのものは無料だが、護摩の時間帯は公式の案内で確かめてから訪ねたい。
不動堂のすぐ隣、参道を抜けた先が富岡八幡宮だ。1627年の創建と伝わる深川の総鎮守で、夏には江戸三大祭のひとつ「深川八幡祭り」の氏子神輿がこの境内から繰り出していく。本殿の脇には大関力士の名を刻んだ横綱力士碑が立ち、江戸の勧進相撲がここを発祥としたことを今に伝えている。境内の奥には金色の装飾をまとった大神輿が納められた建物もあって、覗き込むと薄暗がりのなかで金具が鈍く光っていた。祭礼の日程などは年によって動くので、訪問前に公式で確かめておくと予定が立てやすい。
最後は門前仲町の駅へ向かいながら、永代通り沿いの仲町通り商店街をひやかして歩く。旧永代寺の門前町として江戸期からにぎわってきた一帯で、毎月1日・15日・28日の縁日には参道に露店が並ぶ。通りからわずかに脇へ入ると辰巳新道があり、煉瓦敷きの細い路地に小さな店が肩を寄せ合っている。日が傾くと提灯に灯が入り、貝の出汁を炊いた深川めしの湯気と、炭火の匂いが路地にこもって、歩いてきた一日のしめくくりにちょうどいい。
石を踏む音、池に跳ねる鯉の音、護摩を焚く太鼓の音。深川の一日は、耳でも歩ける。マチノワ編集部
門前仲町の駅前まで戻ると、夕方の永代通りはもう人が増えていた。仲町通りの提灯にぽつぽつ灯がともりはじめ、辰巳新道のほうから出汁と炭の匂いが流れてくる。朝に運河で見た黒い水面のことを思い出しながら、今日たどってきた道を頭のなかで巻き戻す。池の石、緑の大橋、八幡さまの石畳、線香の煙。距離にすればたいしたことのない道のりなのに、ずいぶん遠くまで来たような気がするのは、たぶんこの街が水と路地で時間を折りたたんでいるからだ。なお拝観時間や入園料はときどき変わるので、出かける前に各施設の公式の案内をのぞいておくと安心して歩ける。下町は、急がない人にやさしい。