マチノワ · 2026年 春号
G8-03·2026-06-14·約4分
SUMIYOSHI WALK

住吉大社を歩く。
反橋から潮掻く杜へ、大阪最古の社さんぽ

阪堺電車のチンチンという鐘が遠ざかると、急に音が引いた。紀州街道を一本またいだだけなのに、車の地鳴りが松の梢の高さで濾されて、足元に届くのは砂利を踏む自分の靴音ばかりになる。朱の大鳥居をくぐると、目の前に弓なりの橋が立ち上がっていた。空へ向かってそり返るその朱色を、住吉の人は「太鼓橋」と呼んでならい育つのだという。海に近い土地の光はどこか白っぽく、橋の朱を一段とあざやかに見せる。きょうはこの橋を渡って、潮の名を残す参道の奥まで、ゆっくり歩いてみる。

副題

大阪・住吉 | SUMIYOSHI WALK

編集

マチノワ編集部

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厳選4

大阪・住吉 | SUMIYOSHI WALK

順位ではなく、編集部が選んだ4スポットを順にご紹介します。阪堺電車のチンチンという鐘が遠ざかると、急に音が引いた。紀州街道を一本またいだだけなのに、車の地鳴りが松の梢の高さで濾されて、足元に届くのは砂利を踏む自分の靴音ばかりになる。朱の大鳥居をくぐると、目の前に弓なりの橋が立ち上がっていた。空へ向かってそり返るその朱色を、住吉の人は「太鼓橋」と呼んでならい育つのだという。海に近い土地の光はどこか白っぽく、橋の朱を一段とあざやかに見せる。きょうはこの橋を渡って、潮の名を残す参道の奥まで、ゆっくり歩いてみる。

SPOT01
路面電車駅・起点 · 大阪府大阪市住吉区

住吉鳥居前駅(阪堺電車)

大阪に一系統だけ残った路面電車、阪堺電車がコトコトと停まる小さな電停で、ホームを降りればもう住吉大社の西大鳥居が正面に立っている。改札も跨線橋もなく、軌道のすぐ脇から朱の鳥居へ歩き出せる近さは、ここが車より先に「歩く人と路面電車のための門前」だった頃の名残のように思える。すぐ南の汐掛道沿いには、終電がきわめて早いことで知られた住吉公園駅があったが、線路の老朽化で2016年に役目を終えた。だから今、軌道で住吉大社の鳥居前に立てる電停はここひとつ。発車を待つ電車の窓越しに大鳥居を見ていると、歩き出す前から少し背筋が伸びる。

路線阪堺電気軌道 阪堺線
鳥居まで電停を降りてすぐ
SPOT02
石・木造の太鼓橋 · 大阪府大阪市住吉区住吉

反橋(太鼓橋)

鳥居をくぐってまず迎えるのが、池をまたいで弓なりにそり返る朱塗りの反橋だ。高さは四メートルあまり、いちばん急なところは勾配がおよそ四十八度もあって、登りはほとんど階段、下りは足先で段をさぐるようにそろそろと進むことになる。豊臣秀頼の母・淀殿の寄進と伝えられ、川端康成も随筆でこの橋を書きとめた。住吉では、この橋を渡ること自体が罪や穢れを祓う行いだとされてきた。だから観光の通路ではなく、いわば最初のお参りなのだと思って、手すりに頼りつつ一段ずつ昇る。てっぺんで一度立ち止まると、朱の欄干の向こうに本殿の檜皮屋根がのぞいた。

高さ約4.4メートル
最急勾配約48度
別名太鼓橋
SPOT03
神社(摂津国一宮)・本殿 · 大阪府大阪市住吉区住吉

住吉大社 本宮・五所御前

橋を下りて門をくぐると、白い玉砂利の上に檜皮屋根の社殿が四棟、不思議な並び方で建っている。手前から奥へ三棟を縦に、四本目だけが横に寄り添う配置で、これは大海原を行く船団になぞらえたものだと伝わる。柱が朱、板壁が白の住吉造はこの社が大もとの古い様式で、四棟そろって国宝に指定されている。第一本宮の右手にまわると、玉垣の中に小石の散る一画があり、ここが五所御前。「五」「大」「力」と記された小石をひとつずつ拾い集めてお守りにすると、体・智・財・福・寿の五つの力を授かるという。しゃがんで砂利に指を泳がせる人の背中が、参拝のあいだ途切れることがない。

社格摂津国一宮
本殿住吉造 四棟・国宝
五所御前五・大・力の石を拾う信仰
SPOT04
府営公園・燈台 · 大阪府大阪市住之江区浜口東・浜口西

住吉公園・住吉高燈籠

鳥居を出て紀州街道を西へまたぐと、松並木の続く広い道に出る。これが汐掛道、潮を掻きながら浜へ向かった頃の名を残す住吉大社の表参道で、いまは住吉公園を東西に貫いている。住吉公園は明治六年に開かれた大阪府営第一号の公園で、もとは住吉大社の社域だった一帯が公園として開放された。松の下を西の端まで抜け、国道二十六号をはさんだ浜口西のたもとまで来ると、高さ十六メートルほどの住吉高燈籠が立っている。鎌倉期に灯がともされたと伝わり、日本最古の灯台ともいわれる常夜灯で、いまの塔は昭和に元の場所から東へ移して鉄筋で建て直されたもの。かつてはここから海が見え、沖の船がこの灯りを目印にしたという。内部は史料館として公開されているが日が限られるため、立ち寄るなら公開日と時間を住吉名勝保存会の案内で先に確かめておきたい。

公園明治6年開設・大阪府営第一号
高燈籠高さ約16メートル
参道汐掛道(表参道)
編集部のひとこと
渡りきって振り返ると、橋はもう自分の背中側にある。住吉を歩くとは、たぶんそういう順番でしか味わえない。
マチノワ編集部
編集後記

最後に、歩き方

汐掛道を西へ抜けて高燈籠の足元まで来ると、参道のにぎわいはすっかり背中に遠い。かつてここから海が見えたのだと聞いても、いまは国道の向こうにビルが並ぶばかりで、潮の気配は松籟のなかにしか残っていない。それでも、橋を渡り、本宮に手を合わせ、五所御前で小石をひろうという順に体を運んでみると、住吉という土地が長いあいだ「海へ向かって祈ってきた場所」だったことが、足の裏のほうから腑に落ちてくる。来た道を戻れば、また反橋の朱が松の間からのぞく。さんぽの締めくくりは、行きとは逆向きに橋を見上げることにした。なお参拝時間や授与所の受付、各施設の公開日は折々で変わるので、出かける前に住吉大社や各館の公式の知らせに目を通しておくと安心だ。

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