銀閣寺(慈照寺)
総門をくぐると、両側を高い生垣に挟まれた銀閣寺垣の参道が、視界をいったん閉じてから観音殿の前で一気にひらく。足利義政が東山の山荘として造ったこの寺の見どころは、銀色に輝く楼閣ではなく、月の光を反射させるために整えられたという白砂の盛り「銀沙灘」と円錐形の「向月台」。背後の山をそのまま庭に取り込んだ斜面を登ると、苔と木立の隙間から屋根瓦と京都市街が重なって見え、ここが街と山の境目であることがよくわかる。志納料の改定が告知されることがあるので、入口の案内で確認しておくとよい。
朝の白川通からゆるい坂をのぼると、生垣の影が長く落ちて、観光バスの喧噪がふっと遠のく。砂利を踏む音、どこかで鳴く鳥、そして低くつぶやくような水の流れ。東山の山裾には、銀閣寺から南禅寺まで、疏水の細い流れに導かれて寺と橋が連なっている。今日はその水音を道しるべに、北から南へ、坂を下りながら歩いてみる。
東山のふもと、水音をたどる二キロ
マチノワ編集部
順位ではなく、編集部が選んだ5スポットを順にご紹介します。朝の白川通からゆるい坂をのぼると、生垣の影が長く落ちて、観光バスの喧噪がふっと遠のく。砂利を踏む音、どこかで鳴く鳥、そして低くつぶやくような水の流れ。東山の山裾には、銀閣寺から南禅寺まで、疏水の細い流れに導かれて寺と橋が連なっている。今日はその水音を道しるべに、北から南へ、坂を下りながら歩いてみる。
総門をくぐると、両側を高い生垣に挟まれた銀閣寺垣の参道が、視界をいったん閉じてから観音殿の前で一気にひらく。足利義政が東山の山荘として造ったこの寺の見どころは、銀色に輝く楼閣ではなく、月の光を反射させるために整えられたという白砂の盛り「銀沙灘」と円錐形の「向月台」。背後の山をそのまま庭に取り込んだ斜面を登ると、苔と木立の隙間から屋根瓦と京都市街が重なって見え、ここが街と山の境目であることがよくわかる。志納料の改定が告知されることがあるので、入口の案内で確認しておくとよい。
銀閣寺の門前町を抜けて橋をひとつ渡ると、そこからは琵琶湖疏水の分線に沿って、石畳と土の小道がゆるやかに南へ延びていく。哲学者の西田幾多郎が思索しながら歩いたという来歴がこの名の由来で、車道から一段下りた水辺は、市街の音から不思議なほど切り離されている。日本画家・橋本関雪ゆかりの桜が水面に枝を差しかけ、葉桜の季節は緑のトンネル、晩秋はイロハモミジが流れに散る。途中、猫が石垣の上で日を浴びていたりして、急ぐ理由が一つずつ抜けていく。
道の中ほどで山側へわずかに逸れると、参道の奥に茅葺の小さな山門が現れる。苔むした屋根をくぐった先、左右に盛られた白い砂の壇「白砂壇」が水を表し、そのあいだを通ることで身を清めて境内へ入る、という趣向になっている。観光の流れからほんの数十歩外れただけで、聞こえるのは砂利と自分の足音くらい。文人の墓が静かに残ることでも知られ、谷崎潤一郎もこの地に眠る。境内は自由に歩けるが、伽藍内部の特別公開は時期が限られるため、訪ねる前に公式の案内を見ておきたい。
哲学の道が尽きるあたりで、楓の木立に包まれた禅林寺の門が見えてくる。本尊の阿弥陀如来像が、まっすぐ前ではなく左後ろを振り返る独特の姿をしていることから「みかえり阿弥陀」と呼ばれ、遅れて来る者を待つ仏として親しまれてきた。回廊で結ばれた堂宇を抜けて斜面の石段を登ると、山上に立つ多宝塔の前に出て、屋根越しに京都市街が広がる。境内を埋める数千本の楓が色づく季節は別格の混みようになるので、静けさを求めるなら受付開始まもない時間が歩きやすい。
永観堂から松並木の参道を南へ詰めると、空を遮るように寛永年間再建の三門が立ちはだかる。急な階段を踏んで楼上に上がれば、組まれた梁の向こうに京都の街がひらけ、ここまで下ってきた東山の坂をふり返ることになる。境内の奥には、明治期に琵琶湖疏水を渡すために築かれた赤煉瓦のアーチ「水路閣」が、寺の景観の中を堂々と横切っている。古い伽藍と近代の土木構造物が同じ画面に収まるこの取り合わせは、水音をたどってきた一日の終わりにふさわしい。三門や方丈庭園は別途拝観の受付があり、料金は折々改められるため最新の掲示で確かめてほしい。
水は北から南へ、いつもと逆の向きに流れていく。その流れに逆らわず、ただついて歩く。マチノワ編集部
蹴上の交差点まで下りてくると、それまで耳の底にあった水音がいつのまにか消えていることに気づく。山際の細い流れから、街の大きな通りへ。二キロほどの距離なのに、銀閣寺の砂盛りと南禅寺の煉瓦のあいだには、ずいぶん長い時間が挟まっているように感じられた。哲学者が何を考えながらこの道を往復したのかは知らないが、足の運びに合わせて頭が空っぽになっていく感覚だけは、たしかに残った。拝観の受付時間や志納料は折々に見直されるので、出かける前に各寺の公式の知らせに目を通しておくと、坂の途中で慌てずに済む。